コラム
佐々木竹見・王者の眼差し



佐々木竹見(ささき たけみ)
元川崎競馬所属騎手。“鉄人”の愛称で知られる国内最多勝記録・7,153勝をあげた日本を代表する名手。
現在は地方競馬全国協会の参与として騎手候補生である後進の指導を行うほか、競馬のPRのために各地のイベントなどにも出演している。
令和7年度第3回開催 関東オークスJpnII 他
6月16~20日の開催はダブル重賞。17日に行われた川崎スパーキングスプリントは、断然人気に支持されたエンテレケイアが、直線半ばでティアラフォーカスを振り切って完勝。鞍上は吉原寛人騎手でした。
18日の関東オークスJpnIIは、4コーナーで先頭をとらえたJRAのメモリアカフェが直線後続を置き去りにして圧勝。鞍上はクリストフ・ルメール騎手でした。2着に愛知のコパノエミリア、3着には船橋のプラウドフレールが入り、地方勢も健闘しました。
その日の最終レースに行われた短夜特別は、1番人気に支持されたホッコーソムニウムがスタートで出遅れて後方からとなったものの、向正面から早めにまくって一気に先頭に立つと、そのまま後続を寄せ付けませんでした。鞍上はデビュー2年目の佐野遥久騎手でした。
なおこの開催では、18日に山崎誠士騎手が地方競馬通算2000勝を達成、また同日、山崎裕也調教師が同400勝を達成しました。
今回はこの3レースについて、佐々木竹見さんにうかがいました。(聞き手・構成/斎藤修)
2025年6月17日(火)川崎スパーキングスプリント
優勝馬エンテレケイア
スタートでは内枠のカプリフレイバーやリノデスティーノも行く気を見せましたが、結局は吉原騎手のエンテレケイアが外枠(7枠10番)でもハナを取りきりました。3コーナーまでにハナを取りきったのがひとつ勝因でしょう。この短い距離(900m)だとダッシュ力のある馬は断然有利です。
エンテレケイアは3~4コーナーでも手応え良く、外にぴたりと追走してきたティアラフォーカスが直線でも粘っていましたが、最後はエンテレケイアが振り切りました。ティアラフォーカスは枠順が内外逆だったら、もっと際どい場面があったかもしれません。ただやはりこの距離で最後の1馬身半という差は、能力の差でしょう。
直線ではうしろから伸びて来るような馬がいませんでした。たとえば大井のように長い直線であれば追い込みもあるかもしれませんが、川崎のこの距離では行った者勝ちということがほとんどです。特にオープンクラスの能力が高い馬同士の対戦で追い込みを決めるのはなかなか難しいです。
2025年6月18日(水)関東オークス
優勝馬メモリアカフェ
逃げたジョートビーは、調教師から指示があったのかどうか、ちょっと飛ばしすぎました。それゆえ隊列は最初の3~4コーナーから縦長になりました。勝ったメモリアカフェのルメール騎手はそれでも余裕で中団を追走していました。最後の3~4コーナーで外から上がってきたときは抜群の手応えで、直線ではあっという間に突き放して5馬身差をつけました。ルメール騎手も落ち着いて乗っていたし、1頭だけ能力が違いました。
勝った馬は強すぎましたが、2着のコパノエミリア、3着のプラウドフレールもよく走りました。
プラウドフレールは前半離れた2番手とはいえ、前が飛ばしていましたから最初のスタンド前の直線では掛かっていくようなところがありました。直線でもよく粘っていましたが、最後にコパノエミリアに交わされたのは、道中で行きたがっていたぶんがあったかもしれません。飛ばしていく馬がいなくて、スローで逃げられれば勝ったメモリアカフェに対してももう少しきわどい場面はあったかもしれません。
ただそれにしてもコパノエミリアの直線での伸びは目立ちました。前が飛ばしても道中では慌てず、直線に賭けた吉村騎手の好騎乗でした。2着、3着は展開次第で力差はないように思います。
2025年6月18日(水)短夜(みじかよ)特別
優勝馬ホッコーソムニウム
勝ったホッコーソムニウムは、これまで逃げて連勝していましたが、今回はスタートでダッシュがつかず後方からになりました。ただ佐野騎手は慌てることなくじっくり後ろで構えて行きました。慌てて位置をとりに行くと、内枠ですから囲まれてしまうリスクがありますが、落ち着いて外に持ち出していったのがまずよかった。外めを追走したことで、向正面で馬群が固まったところで仕掛けて行くことができました。一気に先頭に立つと、さらに3コーナー過ぎでは後続を突き放しました。そこで差を開いたぶんが最後の3馬身差になりました。向正面で仕掛けて行ったときに先頭まで行き切ったのが一番の勝因です。
ただこういう思い切ったレースをするのは勇気がいります。これで負けてしまえば何を言われるかわかりません。それでもこういう思い切ったレースをできるところが、佐野騎手が乗れている要因でしょう。
2、3番手につけていた10番人気のアスタラビスタが2着で、そのほか先行勢が上位に残っていますので、道中はスローペースでした。それを読んで向正面で一気に仕掛けた佐野騎手は好判断でした。