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川崎競馬対談シリーズ (第8回、ゲスト:浅野靖典さん)

競馬をこよなく愛し各界で活躍されている方々に、川崎競馬副管理者との対談を通じて川崎競馬への期待やご意見を伺う機会を設けています。

第8回は「浅野靖典」さんにお話を伺います。(ノーカットで掲載しています)

[2013年8月21日於 川﨑競馬場]

浅野靖典さん

浅野靖典さんのプロフィール

千葉県出身の競馬キャスター・ライター。44歳。趣味は旅、公営競技観戦など。

主な出演歴は、web『クリック地方競馬・地方競馬探検隊』、グリーンチャンネル『中央競馬完全中継』『競馬ワンダラー』など。

著書に「廃競馬場巡礼」(2006年 東邦出版)がある。


競馬との出会い、きっかけ
川﨑: 本日はお時間をいただきありがとうございます。浅野さんは競馬の世界では知らない人はいないというくらい、たいへん有名な方です。競馬との出会いや、きっかけというのは何でしょうか?
浅野: いや、全然有名ではないですよ(苦笑)。私は高校時代、松戸に住んでいて、武蔵野線で市川の高校に通っていました。土曜日に部活が終わって夕方3時半くらいの電車に乗ると、船橋法典でものすごい数の人が乗ってくるんです。当時は「ワイワイガヤガヤとして、この人たちは何なの?」という感じで、全然わかっていませんでした。
川﨑: 当時は、土曜日でも日曜日と変わらないくらい、かなりの人が中山競馬場に押し寄せていましたものね。
浅野: 初めて競馬を体験したのは、大学に進学した時、友人にウインズ後楽園へ連れて行かれたときですね。大学は仙台でしたので、競馬場としては山形の上山競馬場に行ったのが初めてです。競馬を知ってしまってからは、土曜と日曜は福島競馬場に通うようになりましたね。今から振り返ると初期の「ハマり」というやつです(笑)。
川﨑: 船橋法典でたくさんの人が電車に乗ってきた人たちを見て、何となく「楽しそうだな」とか思われたということですが、どこか潜在的な願望があったのでしょうね?
浅野: そうですね。後で思い返してみると、当時の船橋法典の人たちは、自分が競馬にハマッた姿と同じだったんだ、ということが分かりました。(笑)
川﨑: 上山競馬場や福島競馬場に行かれたということですが、中央競馬と地方競馬の違いというのはご存じだったんですよね?
浅野: それが全然わかってなかったですね。なので、仙台に住んでいたのに昔の盛岡競馬場に行ったことがないんですよ。今だったら絶対に行くんですけど……。当時は仙台のテレビでも、盛岡競馬や水沢競馬のレビCMをやっていました。それを見てもそこに行こうと思わなかったということは、やはり、当時は馬券が当たったか外れたかという、そこだけで一喜一憂しているレベルの「にわかファン」だったということになりますかね。
川﨑: 他の公営競技、例えば、競輪とか競艇とかには行かれたりしたのでしょうか?
浅野: それは全くないです。住んでいたところが仙台ということも関係しているかと思いますが。大学4年生になった時、マスコミ関係の仕事に就きたくて各放送局を受験しましたけれど、その志望理由が「競馬の実況をやりたい」という押し文句一辺倒でした。結局通らなかったんですけどね。(笑)
川﨑: 元々、アナウンサー志望ということでしょうか?
浅野: そうですね。アナウンサーになりたいと思っていました。ただ、そんなにちゃんと考えていたかというと、怪しいものがあります。単に目立ちたいとか、そのように思っただけかもしれませんね。
それでマスコミ関係の会社が受からなかったので、ゲーム会社に入り、そこで6年くらい勤務しました。そうしたらある時、グリーンチャンネルに縁があってオーディションを受けさせていただきましたところ、それがどういうわけか合格してしまいまして。
川﨑: 念願のマスコミ関係の仕事に関わられてよかったですね。
浅野: ええ。競馬中継という仕事に携われることになったときに、グリーンチャンネルのディレクターが「北海道の馬産地に行こう!」と誘って下さったんですよ。実は、その方は一口馬主でして、ご自分が関わっているその馬に会うのが目的だったのですが、その馬を見るなり「かわいい、かわいい」と、とても愛(め)でていたのを見て、私は心の底から羨ましくなったんです。それを見ているうちに、感化されてしまい「自分も一口馬主を始めよう」と思いました。そして一口馬主になると、北海道に行く回数が格段に増えて、多い時では1年間に12回行きました。特に何も用事がないときでもなんとなく牧場に行っていました。
浅野靖典さん
川﨑: ゲーム会社にいたとき時よりも、グリーンチャンネルに入ってからの方が、当然ですが、競馬に対する愛着が格段に高まったという感じでしょうかね?
浅野: んー、そうですね。ただ、ゲーム会社に勤めていたときも川崎市内に住んでいたので、土・日はウインズとか府中にはよく通っていました。
川﨑: 川崎競馬場にもいらしていたのでしょうね!
浅野: いえ、その頃は、正直に言うと川崎競馬場はあまり訪れた記憶がないですね(笑)。理由がちゃんとあるんです。会社では平日の残業が月に200時間くらいという感じで働いていて、夜はいつも午前様でした。だから、会社帰りにナイター競馬というわけにはいかなかったんです。
川﨑: グリーンチャンネルに入り、伝える側になると、ご自身が「いいな」と思わないと伝わらない部分もあるかと思います。そういう意味で、競馬が好きだったということでは、やりやすかったのでしょうね?
浅野: グリーンチャンネルの関係者からは、「客からキャスターになったのは、お前が史上初だ!」と、よく言われましたね(笑)。というわけではないでしょうが、私もその目線だけは忘れないようにしようと思いました。一般的には仕事の一つとして競馬のキャスターがあるものと思いますが、私は趣味の延長線上ですから、テレビを見ている皆さんと同じ立場ですよ、という目線をいつも大事にしたいと思っています。
川﨑: 大切な視点ですね。
浅野: 私も一口馬主になったので、北海道にもしょっちゅう足を運び、牧場の方たちと一緒に飲みに行ったりもしました。セリにも何回も行きました。そのなかで、馬産地の一頭一頭に対する思いというのが、とても重いものなんだということが段々と分かってきまして。生産者賞とか、そういったお金の部分もあるんですけれども・・・。
10年くらい前でしょうか、馬産地では小規模の生産者の夜逃げがいくつかあった時期で、そんななかでもセリが終わって「売れた!売れた!」と家族みんなで抱き合って喜んでいる姿を見たりしていると、牧場の方たちの思いにはとても大きいものがあるんだなと思いました。
こうした光景に触れる前までは、競馬に対しては単にゼッケンを着けた馬たちが走っているような見方でした。でも、ここまで育てて走れるようになるまでには、想像できないほどえらい手間がかかっているということが少しずつ見えてきました。それからは、勝った負けたということだけではなく、競走馬を支える人たちの熱い思いということも心の中に入れて、競馬関係の仕事に励みたいなと思いました。
レース観戦のポイント
川﨑: レースの観戦ポイントというのは、私たちとは違うのかなと思いますけれど、実況に限らずパドックやレースの見方というのはどのようなものでしょうか?
浅野: 主催者は同じくらいの足の速さをもつ馬を揃えてレースを編成している、というところを意識しています。ですので、パドックを歩いている馬のなかで、このレースでやる気がいちばんある馬はどの馬なのか、ということを読み取ろうと考えています。なんとなく、その馬から出ているオーラで伝わってくるものがあるんですよ。
川﨑: オーラは、特にどの部分から出ているとかあるのですか?
浅野: 全体の雰囲気ですね。セリ場でいい馬を見分ける方法としては、遠くから眺めてみて「あれがいいな」と思ったのを何頭かピックアップして、それから後で近づいてチェックするという方法が一番当たる確率が高いんじゃないか、と教えていただきました。これは、いろんな方が同じようなことをおっしゃっています。
川﨑: 興味深い話ですね・・・。
浅野: 細かい粗(あら)を探すのではなくて、全体を見て、この馬は雰囲気がいいな、みなぎっているなと思う馬がいたら要チェックです。そういう意味では、新聞を見ずに馬券が当たったりすることがありますね。自分の体調が良ければ、なんですが(笑)。
シンガポールではその感覚だけを信頼して買って3連単で380倍を当てましたし、香港でも620倍が当たったりしました(笑)。
川﨑: 凄い!を通り越して、何か神がかり的なものを感じますね。トータル的にはかなり成績が良いのでは?
浅野: そこが問題なんですけどね(笑)。他の用事を抱えて競馬場に行く時は、どういうわけか、まず当たらないです。たぶん、馬券に集中できないのでしょうね・・・。
川﨑: 高額な配当をよく的中させているお話がありましたが、思い出に残っているレースとか、あるいは、馬や騎手はありますか?
浅野: それはもうキリがないんです。いろんな馬が私の頭の中を駆け巡っていますから。ですから1頭の馬を追い続けるというのはないですね。そういう部分でも、私は一人の客なんですよ(笑)。それでも思い出の馬はすごくいっぱいいます。現役馬であればラブミーチャン(※1)ですね、取材等で全出走の半分くらいを笠松や阪神、名古屋で、ライブで見ていますし、ラブミーチャンが出ていれば、競馬場に行こうという動機付けにもなります。
(※1 2009年~2013年 主な勝鞍 09'全日本2歳優駿(G1) 12'東京盃(G2) 戦績34戦18勝 現在は引退)
ラブミーチャン(2009年12月全日本2歳優駿(JpnⅠ))
ラブミーチャン(2009年12月全日本2歳優駿(JpnⅠ))
仕事上での思い出
川﨑: 仕事を通してエピソードとか、思い出というのを聞かせて下さい。
浅野: 北海道の牧場巡りをしているときに、浜本牧場の牧場主さんと仲良くさせていただくようになったんですが、その牧場の生産馬ツルマルボーイ(※2)が安田記念(GⅠ)を勝った時、来賓席で浜本さんと一緒に観ていたんです。最後の直線で、外からバランスオブゲームとテレグノシスが突っ込んできて首差で残って勝ったんですが、その応援で机をバンバン叩いて、そして私も浜本さんも夢みたいな気持ちになりましてね・・・。
静内で一緒に飲んでいた、その浜本さんが表彰台に立っている姿を見られたことにはとても感激しましたし、嬉しかったです。そうした場面でご一緒できたというのが、この仕事をしていて良かったなぁと思った瞬間でした。単なるお客であったなら、ただ「表彰式をやってるなー」程度しか思わないじゃないですか。でも、一歩内側に入ると全然違いますよね。そういうことを知ることができたというのが、この仕事をやっていて一番良かったなあと思います。
(※2 2000年~2004年 主な勝鞍04'安田記念(G1) 戦績32戦7勝)
川﨑: そうですか、それはとても深いお話しを伺うことが出来ました。ところで、浅野さんは本を書かれたり、いろんな分野でご活躍されていますが、普段から心がけていることはありますか?
浅野: 先ほども申し上げましたが、客目線を忘れないということです。競馬関係者の知り合いは増えていきますが、それは別に置いておいても、競馬場にいる時には周りのお客さんと同じ目線でいようと、常に思っています。
地方競馬に対する現状認識
川﨑: 浅野さんは「クリック地方競馬」などの競馬番組で、全国の地方競馬場をつぶさに観て来られたと思うのですが、浅野さんからご覧なって、地方競馬は、今後、どのようにしていけばいいか、ご意見があれば伺ってもよろしいでしようか?
浅野: 私は日本の地方競馬場は、全て5回以上は行っていると思います。地方競馬全体に言えることは、川崎競馬場も含めて入場者数の減少は如何ともし難いですよね。ゲーム会社ではテーマパーク事業部にもいましたが、そこ出身の私から見ると、地方競馬はもっとエンターテインメント性を追求すべきだろうと思います。競馬は昭和初期からだいたい同じことをやっていますよね。昔は川崎の工場とかで3交代制で働いていた人が、夜勤が終わって朝10時から競馬場に来ていましたし、競馬場を開けてさえいれば客が来るという時代があったと思うんですが、今は望むべくもない状態です。働いている人間もオートメーション化によってドンドン減ってしまい、客の絶対数がいないという状況です。だったら、競馬場に来ることによるとインセンティブをもっと増やすべきだと思っています。
川﨑: 社会環境の変化も著しいですからね・・・。
浅野: 今は在宅投票がありますが、競馬場としては在宅で買われると手数料が引かれてしまうわけですから、やはり現金で買ってもらいたいわけですよね。そのために競馬場ではイベントなどをしていると思いますが、もっと直接的なことをしてもいいのではないでしょうか。
川﨑: 直接的なこととは、例えば、どのようなイベントを指しているのでしょうか?
浅野: 簡単なところでは、専門紙を持たずに出馬表だけで競馬をしているお客さんが結構いらっしゃいますよね。なぜ持っていないかというと、競馬新聞を買うための500円がもったいないからなんだと思うんです。ですから「場内で買っていただければ100円引きにしましょう」とか「次回、半額になるような券を差し上げる」とかのサービスが、本場来場者にあっても良いのではないでしょうか。
川﨑: ナイター競馬で12レースを開催している場合、仕事が終わってから来場すると、大体、半分は既に終わっていたりしますよね。私も、そういう方に対しては割引してあげるか、後半レースだけの新聞を売るなどの工夫があっても良いのではないかと思っていて、専門紙とも意見交換をしているところです。
浅野: 販売部数も減っているわけですからね、「何とかしないと駄目だ」と販売する側も考えているのではないでしょうか? 新聞を見ずに買っているお客さんはまともに予想をしていませんし、一方で新聞を買ってもらえない側も苦しいわけですから、これはお互いに不幸な状態だと感じます。入場者数もかなり減ってきているわけですから、今一度考え直す機会はあると思います。
川﨑: おっしゃっていることは本当に痛感しています。川崎のナイターは、平均4,000人くらいのお客さんがいらっしゃるのですが、土日のJRAの発売日には1万人とか2万人とかいらっしゃいます。そういう意味では、潜在的なお客さんがまだまだいらっしゃるわけです。地方に足が向かない理由のひとつには、新聞代が中央競馬に比べて割高というほかに、地方は中央に比べて番組が分かり辛い、という部分もあるのではないかと考えています。
浅野: 番組の分かり辛さというよりは、馬柱を見て、前走で全然勝てない馬だけが並んでいるとお客さんは困りますよね。それでも、最近は減ってきているとは思いますが、今回の川崎競馬の開催でも前走が全て6着以下の馬だけのレースがありますよね。そういうのは予想のしようがないので、客としては買う気が失せる感じがしてしまいます。分かりやすさということでいえば、格付けというよりも組み合わせの問題だと思います。
川﨑: 川崎競馬場でも前走の成績を参考に、面白いプログラムづくりに取り組んでいます。例えば、夏に北海道から特例基準で入厩してきた馬たちだけのレースを組んでいますが、そうすることで新馬戦と同じように前走の欄が皆、空白で表示されるイメージです。
浅野: 南関で再スタートを切るという意味ですね。
川﨑: そうです。でもこうした私たちの意図をマスコミは汲(く)んではくれず、新聞各社は前走欄が空白ではなくて、単に前走の成績を表示してしまったのですよ(笑)。そういう意味では主催者の意図である「全てが特例転入馬で、このレースが南関移籍最初のレース」という番組の意義がうまく伝わらなくて残念だったということがありました。
また、別の企画レースとしては、前走が全て2~5着馬のレースをやってみました。さらにC1からC2に、格付が下がった馬だけを対象に「ヴィクトリーチャレンジ」と名を打ってレース編成しました。これからも、あの手この手を考えてレースを組んでいきたいですね。
浅野: 推理しがいのあるレースがたくさん出てくるのはファンにとってはありがたいですね。編成上どうしても組まないといけないレースもあろうかと思いますが、そういう場合にはフルゲートでなくても8頭立てとかで組んでいただければ、少しは予想しやすくなるかなと思います。
川崎競馬への印象
川﨑: 川崎競馬に対しては、どのような印象をお持ちでしょうか?
浅野: 川崎はいつも堀之内を通ってきて、堀之内を通って帰るというのが楽しみの一つですかね(笑)。
私は海外の競馬によく行きますが、川崎はハッピーバレー(※3)に近いイメージがあります。スタンドと走路が近くてとても見やすいですし、周りがビルに囲まれているところとか。
(※3 香港の競馬場。1847年設立。競馬場内にはサッカー場や陸上競技施設などもある。)
2008年(平成20年)レディースジョッキーシリーズ総合優勝
ハッピーバレー競馬場(画像元:Wikipedia
川﨑: 私も浅野さんと全くの同意見です。
ところで、浅野さんは全国の競馬場にたくさん行かれたと思いますが、川崎競馬場にはどのくらいの頻度で来られるのですか?
浅野: カツマルくんカードの記録を見ると2007年以降で40回となっていました。カードを忘れることもあるので50回くらいは来ていると思いますよ。毎開催は来られませんが、少なくとも年に8回くらいは来ています。
川﨑: お仕事で来られるのが多いのですか?
浅野: そんなことはないです。友達同士でよく来ます。
川崎競馬に対するエピソード
川﨑: 川崎競馬場にもそれだけ来ていただいているということですが、川崎競馬場でのエピソードとかはありますか?
浅野: そうですね、川崎競馬では「買っていれば当たったのになぁ」というような思い出が多いですね。ヨシノイチバンボシが3着に入った全日本2歳優駿(※3)は、まさにそれですね。また、トーヨーシアトルとアブクマポーロが対決した時の川崎記念(※4)なども浮かんできます。
(※3 03‘ 第54回全日本2歳優駿(G1) 1着アドマイヤホープ、2着オーゴンコウテイ、3着ヨシノイチバンボシ 単勝180円、馬連5,340円、3連単388,320円)
(※4 98‘ 第47回川崎記念(G1) 1着アブクマポーロ、2着テイエムメガトン、3着トーヨーシアトル  単勝170円、馬連1,090円)
川崎競馬に対する期待
川﨑: 川崎競馬場に対する期待とか、注文などはありますか?
浅野: 川崎競馬場は私の自宅から遠いので、帰りの分も含めると、着いた時点で既にマイナス1,900円になっているんです。それでさらにズタボロにやられると、「次はもうやめようかなぁ」という弱い気持ちになってしまいます。「金の切れ目が縁の切れ目」といいますが、お金が続かないとどうにもならないですね。だからこそ、競馬場に来ることでなにかインセンティブのようなものをファンに与えることが必要なのではと感じています。
川﨑: 主催者としてもお金が転がって行かないと、売上に大きく影響してしまいます。(笑)
浅野: 何かそれだけの苦労をかけて、競馬場に来るだけのモチベーションを維持できるものがあるかなと考えると、昔は情熱があったんだなあと思います(苦笑)。他の要素としては、競馬場に来れば友人がいる、というのもありましたね。
川﨑: 喜びや悔しさを共有することで、競馬がもっと楽しくなりますものね!
浅野: 先日、ウインズ後楽園に久しぶりに行ったのですが、2フロアが閉鎖されていました。開いているフロアにいる人もかなり少なくなっていましたね。昔はどうだったかなと考えてみると、友人やその場で知り合った人とか、話をしている人が多かったような気がします。それが一人減り、二人減り、競馬場や場外に行ってもどうせ私1人だから行くのをやめようかな、という状況になってしまうと、寂しくなるのは当然の成り行きですよね。
川﨑: JRAの調べでは現在、馬券購入を停止している人たちは1,650万人ほどいるそうです。子供が小さいとか、家を建ててローンを返さないといけないとか、親の介護など家庭の事情で馬券を買っていない人だそうです。そういう人たちに、近い将来、もう一度帰って来てもらえるような施策がないかと考えているところです。
浅野: 川崎競馬場に来ている人は、通常だと4,000人ということですが、競馬場に来ている人は、全員趣味が基本的に同じなんですよね。全員趣味が同じなのに、皆、横を見ないで前しか見ていない。うまく横を見させるように誘導すれば、人の和の鎖が太くなると思います。そこで、例えば「川崎競馬場・友の会」とかファンクラブとかを作って、そういう団体のために、現在は閉鎖している1号スタンド3階に丸テーブルを置いて場所を提供してあげるとかすると、競馬場に来ようという動機づけの一助になるのではと思います。
川﨑: 川崎競馬では公認のファンクラブとして「川崎競馬倶楽部」が活動していますが、おっしゃるとおり、ファンへのインセンティブは必要ですね。
浅野: 世界の競馬から学べる部分も結構あると思うんですよ。私はアジアの競馬に行くことが多いのですが、エンターテインメイト性が凄く高いんです。シンガポールの競馬場ではリポーターとハンディカメラを持ったカメラマンがパドックや検量のところに行って、調教師や騎手にインタビューをしています。
それに、日本の競馬場全体に言えることですが、パドックでの引き馬の時間が長いなと感じています。川崎競馬場の場合はパドックと帰ってくるところの動線が別なので、少しは遅らせることができそうな気がするんですが。前のレースが確定してからパドックに馬が出てくるまでの間、何をすればいいかというと、前のレースを振り返る時間に充てればいいなと思います。費用がかかってしまいますけれども、ドリームビジョンで前のレースを流して解説を入れて。
川﨑: 解説が入ると確かにいいですね。川崎競馬場は見た目と違って、ゴール入線後の馬の導線と、パドックから本場へ出る導線とが重なっていて、厳しくタイム管理しながらやっていかないと、上手く流れないという物理的な制約を持っていまして、意外と遊びのスペースがないんですよ。
浅野: そうなんですか。でもスピード感は何とかしたいところです。レース間隔が長いとパドックを30分くらい回っているわけですから。これはJRAの調教師さんから「長すぎるんじゃないか」と苦情を言われたことがあります。私に言われても困るのですが(笑)。個人的には、 パドックは極端に言えば4周くらいでいいんじゃないかなと思いますね。
川﨑: パドックが終わり、本馬場への返し馬になってから、お客さんたちが一斉に馬券を買いに窓口に並ぶという光景ですものね。
川崎競馬副管理者
浅野: ほかに、川崎競馬場といえば誘導馬ですけれども、誘導馬をもっと進化させるといいと思います。誘導してから競走馬が全部走路に入ったら帰るのではなくて、退避所まで一緒に行くべきだと思うんです。それでゲートインを見届けて、レース中は待避所で待機して、レースが終わったら競走馬と一緒に帰ってくる。海外では怖がりの馬には短いリードをつけて、誘導馬がゲートまで一緒に行ってあげるということもありますよ。
川﨑: 誘導馬には、競走馬を落ち着かせるという役割がありますからね。
浅野: あと、韓国などで実施されていることですが、ゲートが悪い馬や癖(へき)を持っている馬について申請があれば、外枠から発走できる制度があります。川崎競馬場は外枠有利という競馬場ではないと思いますので、事故防止の観点からも外枠申請は有効なのではないかなと。浦和の1400mだと外枠有利という感じがありますので厳しいでしょうが、川崎ならどの距離でもできるのではないでしょうか?
川﨑: 主催者が番組編成をする際、意図的に枠を決めるというと、公正競馬に反するのではないかという意見もあり、「機械で枠番をランダムに決めている」と説明すると、厩舎関係者もファンも結構、納得していただけるというのもあります。このあたりのこともありますので、只今のご指摘の点については、少し研究させていただければと思います。
浅野: 公平が悪平等ということもありますよね。たとえば3頭が外枠を希望したのであれば、普通の枠と外枠希望でそれぞれ抽選すれば良いんじゃないでしょうか。
川﨑: そのような意識、認識をファンや厩舎関係者が持っていただけるよう、主催者が何をすべきか、いろいろ考えてみたいと思います。
浅野: 演出という部分では、全レースにウイニングランを義務化してもらうといいなと思います。重賞は表彰式があるからまだいいんですけど、普通のレースでは勝った騎手にお客さんがお礼を言う機会がないんです。パドックで言おうとしても、パドックは静かにしないといけない場所ですから……。それに、ウイニングランを見られるということが競馬場に来るインセンティブになると思うんですよ。香港では1着から4着までの後検量をファンの前でやっています。シンガポールでも上位入線の騎手はウィナーズサークルでやります。2着以下の騎手はムスッとした顔で帰っていきますけど、1着の騎手はたとえ第1レースでもガッツポーズをしてお客さんをすごく煽(あお)るんですよ。そういうのを見ると、馬券が外れても騎手があれだけ喜んでいるのだったら「まあいいかぁ」という気持ちになってしまいます。日本でもレースが終わった後の余韻がもう少しあったらいいなあと思いますね。
川﨑: それをやったら盛り上がりそうですね。私も以前、「どうして川崎競馬場では、ウイニングランをやらないのか」と担当者に聞いてみたところ、払戻しの確定に影響を与えるからとの返事がありました・・・。
浅野: 予定払戻しが表示されていれば、確定を急ぐ必要はないのではと思います。テレビ中継でもやっていますよね。川崎競馬場にはドリームビジョンがあるわけですから、3画面に分けて一つはウイニングランを映して、一つは予定払戻を表示して、そして、最後の一つはレースを振り返ればとても良くなると思います。それらがひととおり終わり、レースが確定して払戻表示がなされた後、次のレースのパドックが始まっても決して遅くないと思いますよ。
川﨑: 一つ一つの所作にお客さんを待たせている部分はあるかと思います。予想もそんなに時間をかけていられないですし、レースも1、2分で終わりですからね。ご指摘のとおり、レース全体にもっと退屈させない仕組みが必要ですね。
浅野: 施設改修の機会があるなら、パドックを劇場型にして2階まで行けるようにして頂けると嬉しいですね。ひな壇になっていれば2階にお客さんを誘導しやすいと思うんですよ。2階まで誘導できたら、3階に全席自由の観覧席がありますよ、と促すのは容易なことだと思います。お客さんに交通費を払って来てもらって入場料も払わせているのに、冷暖房もほとんどないところに5時間も6時間も立ちっぱなしで居させるのはあまりにもひどいですよ。椅子なり空調なり、お客さんにアメニティを考えていますよという部分を表現することは、重要なメッセージになると思います。
川﨑: それはとても重要なことだと思います。今までは黙っていてもファンが来てくれた時代もありましたが、今はお客さんに競馬場を選んでいただかないと成り立たないですから。快適な空間を提供するのは、主催者として目指して行かなければならない大切な経営課題だと認識しています。そのためには施設会社の協力が欠かせないので、ご理解いただけるよう伝えていきたいと思います。
それにしても、エンターテイメント関連にお勤めされていただけあって、浅野さんは、いろいろな発想をお持ちで、とても感心します。
浅野: エンターテイメントというと、例えば遊園地。遊園地に行くと、ウエイティングロープの張りかたとか、結構気になって見ちゃいますね。現場ではゲストマネージメント、ゲストコンディションなどと言うんですけど、「今日は3万人くらい入る可能性があるので、ウエイティングラインをこういう伸ばし方にしましょう」というような・・・。あとは誘導の方法とか、ゲストを不快な気分にさせないと思う気持ちをどのように表すのか、ということに興味がありますね。スーパーマーケットの商品の配置方法なども、同じような観点で興味があります。
川﨑: 川崎競馬では、競馬資源の配置ということでは少し話が小さくなりますが、売上の動向を予測してレースの組み立てを入れ替えるというようなことをしますね。いろいろやってみて検証していますが、ネーミングなどもよく考えています。先日、富士山が世界文化遺産登録されましたよね。その翌週が開催だったので、すぐに山梨と静岡の県庁に問い合わせてネーミングをつけさせていただく許可をいただき、「祝!富士山世界文化遺産登録記念特別」を最終レースに実施しました、地元の人はそれで結構、買っていただいたようで、それが原因かどうかというのは分かりませんが、メインレースと比較して2千万円くらい売上が伸びました。(笑)そして、2020年の東京オリンピックが決まれば、全国の競馬場で応援できたらいいなということで、働きかけているところです。
浅野: 私も無駄に馬券を買ったりしますので、そういうことで馬券を買うということは大いにあると思います(笑)。
自分に対する評価
川﨑: 浅野さんご自身のことについて伺いたいのですが、ご自分のことはどのように評価されていますか?
浅野: 人からは「出役にしては我がないね」とよく言われます。自分でもそう思います。
川﨑: 物事にあまりこだわらないということでしょうか?
浅野: 前に出たいという気持ちがあまりないんですよね。「俺が、俺が」っていう気持ちがあまりなくて。それはいい部分でもありますけれど、出役としては致命的だとも言われています(笑)。例えば、バーベキュー大会をするにしても準備をするのが好きで、食べるのはそれほどでもないというタイプです。
川﨑: 私たちとしては、そういう方がバーベキューにいてくれるととても助かります(笑)。
浅野: イベントなどを担当するにしても、考えるのが好きですね。どうやったら楽しくなるのかということを・・・。当日来て、仕事だけこなしてすぐ撤収、というよりは、いろいろなことを考えて、スタッフの一員みたいな動きをするほうが合いますね。
対談後のスパーキングサマーカップ予想トークショーの様子
対談後のスパーキングサマーカップ予想トークショーの様子
川﨑: 人の嫌がることを進んでやりそうで、周囲の方は本当に大助かりですね。
浅野: いや、何が嫌なことなのかを、分かってないというところがありますね(笑)。
座右の銘
川﨑: 皆さんにお聞きしているのですが、座右の銘ってありますか?
浅野: 座右の銘ですか・・・。そうですね、「結果の出ない努力は遊んでいるのと同じ」という言葉が胸に刻まれていますね。よく、結果が出なくても努力したことは必ずいつか何かにつながるなどといいますが、確かにそういう面があることは否定しませんけれど、だったらもう少し努力して、そこで結果を出しておけばいい話なんじゃないかと。個人的にはそんなふうに感じてしまいます。
今後の目標
川﨑: それでは、浅野さんの今後の目標というはありますか?今年の目標でも良いですし、もっと長い期間でも結構ですが。
浅野: あまり猛々(たけだけ)しいものはないですね(笑)。グリーンチャンネルで競馬中継の司会を8年間やらせていただいて、それが終了してから7年半経つのですが、今もグリーンチャンネルに出させていただいていますし、これ以上望むところもないのかなと。ただ、競馬場に大勢の人が来ていた時代からだんだんと右肩下がりに来場者が減っていくことを実感していますので、それを何とかしないといけない。その面で、客目線でいる自分が主催者さんとの橋渡しになれるという部分で、役に立てることもあるのかなと思います。
川﨑: とてもありがたいお話しです。
浅野: 私は以前「廃競馬巡礼」という本を書かせていただきましたが、以前であれば、「競馬場に馬がいなくなった」とか、「もう競馬開催の必要性がない」などと自然消滅的に廃止になった競馬場がほとんどです。でも今は、確固たる意志を持って競馬場を廃止するという風潮ですよね。これは何とか止めたいと思っています。
川﨑: 地方競馬というのは、よく財政に貢献できない競馬場は必要ないということをよく言われますけれども、実際には雇用の創出とか、地域経済の貢献というのはかなりあると思います。
川崎競馬ファンへのメッセージ
川﨑: 最後に川崎競馬ファンを含め、南関東競馬のファンに対してメッセージをいただけますか?
浅野: 川崎競馬場の客層は、若い人とオールドファンとがいい具合に混ざっていて、個人的には居心地のいい空間だと感じています。また、川崎は予想しやすいので楽しみやすい競馬場であるとも思います。私は川崎ではだいたい1号スタンド2階のベランダ席からレースを観ていますので、ぜひ一緒に楽しみましょう。
浅野靖典さん

(了)

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